仙台高等裁判所 昭和34年(ネ)543号 判決 1962年12月24日
控訴人(被告) 仙台国税局長
被控訴人(原告) 三浦市治
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴指定代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出・援用・認否は、次に記載する事項のほか、すべて原判決摘示事実と同一であるからこれを引用する。
(控訴指定代理人の陳述)
(一) そもそも、農業所得標準は、わが国の農家一般が記帳経理に慣熟せず、農業所得の収支を明確にする資料をも整備していない現状に照らし、各地区の耕作の地力状況にしたがい、毎年の作柄に応じ通常収穫したと認められる反当り収穫量及び反当り収穫に要する必要経費から導き出される反当り所得金額を算定し、これを各農家の耕地面積に適用して農業所得を推計するため、慎重かつ合理的に作成されたものであつて、帳簿書類によつて直接的に農業所得を計算できない場合においては、所得標準に拠ることを妨げる特段の事情のない限り、これにもとづき計算された所得金額は、適法なものと推定されるべきものである。
そして、農業経営は、天候気象の影響を受けることが多く、風水害等の災害による減収により、農作物の生産は年次変化が著しいけれども、災害による減収は、特定地域に限定されるものではなく、概して広汎な地域にわたつて一般に生起するのであり、災害による減収は、農業所得標準作成の際の坪刈調査等の実績に反映して、普通田の所得標準におりこまれるのであるが、稲作について特別の災害を被り、普通田の農業所得標準をもつてこれを律しきれない場合には、これとの調整を図るため、別に災害田減算所得標準を作成して、所得推計の適正を期することとしているのである。しかして、普通田の農業所得標準のほかに、災害田減収所得標準を作成するかどうかは、農業災害補償法において災害による減収量が平年作における収穫量の三〇パーセントを超える場合に農業災害の補償をなすこととされており(一〇九条)、その災害の事実も明確にされている実績に照らし、減収量が三〇パーセント以上の場合は、別に災害田減算所得標準を作成することとし、三〇パーセント未満の災害による減収を受けた耕作田については、普通田の農業所得標準作成の際の標本として調査し、これをおりこんで普通田の農業所得標準を作成しているのである。
(二) 被控訴人提出の甲第二三号証(仙台市農業共済組合長の昭和三〇年度水稲災害証明書)中災害の程度らんの災害等による減収割合は、被控訴人の被害申請にかかる減収割合であつて、共済組合が調査のうえ確定した減収割合ではない。共済組合の災害程度の調査による減収割合は、零から三〇パーセント未満と評価され、共済金の支払の対象とはされなかつたのである(乙第九号証)。
したがつて、減収割合零から三〇パーセント未満にわたる減収は、前述のとおり普通田の農業所得標準にすでにおりこまれているのであるから、農業所得標準を適用することは不当であると解した原判決は、農業所得標準の性格を正当に理解しなかつたものといわなければならない。
(三) 被控訴人は、共済引受面積の六割余にわたる一町二反六畝一〇歩につき、災害を被つた旨仙台市農業共済組合に災害申請をなしているが、そのうち九反七歩については、第一次部落評価の段階において災害による減収の事実なしと認定され、その余のうち三反三畝一四歩については、地区農業共済組合の評価の段階において減収の事実なしと認定され、いずれもその後の被害評価を要しないものとされ、わずかに残余の二畝一九歩の耕作田についてのみ三〇パーセント以上の災害による減収があつたものと評価され、共済金の給付を受けているのである。
右のごとく被控訴人に減収の事実なしと認定されたことは、被控訴人の耕作田につき、通常ないしは通常以上の収穫を挙げていたものとみられたことによるものであるから、たとえ、被控訴人から災害発生の申請があつても、これをもつて、普通田の農業所得標準の適用を妨げる特段の事情が存するものということができない。
ひるがえつて、農業災害補償法による災害申請の実情をみるに、被控訴人居住の七郷地区における第一次の部落評価において、三〇パーセント以上の災害減収があると認定されたのは、共済引受面積の二・五パーセントに過ぎず、農業共済組合連合会における最終評価において、三〇パーセント以上の災害減収があると認定されたのは、わずかに〇・九パーセントに止まる。また被控訴人居住の六丁目部落においては、共済引受面積の約六割につき災害申請がなされたのであるが、第一次の部落評価において、三〇パーセント以上の災害減収ありと認定されたのは、共済引受面積の三パーセントないし四・五パーセントに過ぎず、この段階において災害等による減収の事実なしと認定されたのは、災害申請面積の七三パーセントの多きに及んでいる。
右の状況を被控訴人の場合と比較してみるに、被控訴人の災害申請耕作田につき、部落評価の段階において、災害による減収の事実なしと評価されたのは、災害申請面積の七〇・八パーセントであり、居住部落のそれの七三パーセントをやや下まわるが、共済組合の評価の段階で災害がなかつたものとしてその対象から除外されたものが一七・三パーセントもあり、三〇パーセント以上の災害減収耕作面積の共済引受面積に対する割合は一・五パーセントであつて、居住部落のそれの三ないし四・五パーセントを下まわるものである。
したがつて、被控訴人についてのみ、その居住の部落ないしは地区の災害状況と異なる事実はうかがうことができないのであり、普通田の農業所得標準の適用を除外すべき特段の事情があつたとはいえない。
(四) 普通田の農業所得標準は、実面積一反歩当り二石八斗三升の収穫量があることを前提として定められているが、昭和三〇年度は戦後の豊作の年といわれたように、仙台地方においても格別の災害等による減収をみなかつたことは公知の事実であり、被控訴人もその例にもれず、実面積一反歩当り約二石八斗三升の収穫があつた。被控訴人の同年度における供出米量は、昭和二八年以降昭和三三年に至る各年度の供出量のうち最高であつたことからしても、昭和三〇年度は被控訴人にとつても豊作であつたことがうかがわれ、原判決のいうがごとく「芳しくない稲作」ではなかつたのである。
また、七郷地区における未耕地整理地については、九・五パーセントの繩延びがあることを前提として農業所得標準が定められているけれども、被控訴人の耕作田(未耕地整理地)を実測すると、右の標準を上まわり、二五パーセントの繩延びがある。
要するに、被控訴人の耕作田の昭和三〇年度における公簿面積一反歩当りの実収量は、農業所得標準の作成の前提である実面積一反歩当り二石八斗三升の収穫量(被控訴人の場合は未耕地整理地であるから、九・五パーセントの繩延があるものと推定しているので公簿面積一反歩当りでは三石となる。)を下らないことは明らかであり、農業所得標準の適用を妨げる特段の事情は全く存しないのである。
(五) 被控訴人が三〇パーセント以上の災害による減収があると認定された前記二畝一九歩については、被害田減算所得標準(乙第二三号証)を適用すべきものであり、控訴人は、被控訴人の耕作面積一町九反六畝二三歩に普通田地力階級区分B級の一反歩当り二三、七三〇円(未耕地整理地)を適用して所得推計をしているのであるから、災害減算額も同様に同標準の地力階級区分B級の未耕地整理地の当該反当減算額一五、二五四円を適用して減算金額四、〇一二円を得、これを被控訴人の昭和三〇年度審査決定額三七六、五〇〇円から右減算額四、〇一二円を差引いた三七二、四八八円をもつて被控訴人の同年度における農業所得金額と推計したのである。
右の推計は、被控訴人の耕作反別を公簿面積による一町九反六畝二三歩とした場合であるが、被控訴人は、昭和三〇年度に右以外に仙台市七郷大字六丁目字切符屋一五番田三畝二三歩を耕作したのであり、これについては課税の対象からもれていることが明らかであるから、これが加算を要する。そして、右三畝二三歩に普通田の反当り農業所得標準二三、七三〇円(乙第一〇号証の五参照)を乗じて得た八、七八〇円が加算金額となる。
したがつて、被控訴人の前記昭和三〇年度農業所得金額三七二、四八八円に右八、七八〇円を加算すると、三八一、二六八円となり、控訴人の審査決定額三七六、五〇〇円を上まわる結果となる。
さらに、被控訴人耕作田の前記繩延びを合理的に修正して被控訴人の同年度における農業所得金額を推計すれば、右三八一、二六八円を大巾に上まわることが明らかである。
(証拠関係)<省略>
理由
(一) 被控訴人が肩書地において農業を営んでいること、被控訴人が昭和三一年三月一五日仙台北税務署長に対し、その昭和三〇年度分農業総所得金額を二九四、九九七円、所得税額を二、八五〇円として確定申告したところ、同税務署長が昭和三一年七月三日農業所得標準による推計により、被控訴人の右総所得金額を三八五、九三〇円、所得税額を二二、〇〇〇円と更正したこと、これに対し、被控訴人は同月二四日同税務署長に再調査請求をなしたが、同税務署長が同年一〇月二三日棄却の決定をしたので、さらに同年一一月一九日控訴人に審査の請求をなしたところ、控訴人が昭和三二年五月二日原処分の一部を取消したのみで、農業所得標準による推計により、被控訴人の昭和三〇年度総所得金額を三七六、五〇〇円、所得税額を二万円とする審査決定をなしたことは当事者間に争がない。
(二) 被控訴人は、昭和三〇年度における被控訴人の農業総所得金額は二九四、七九七円で所得税額は二、八五〇円であるのに、控訴人が右のごとく被控訴人の同年度総所得金額を農業所得標準により推計し、審査決定を行つたのは違法である旨主張するので判断するに、原審証人成瀬格の証言、これにより成立を認める乙第四号証、原審証人高橋博の証言によると、被控訴人は収穫並びに必要経費に関する継続的記帳をなしておらず、仙台北税務署及び控訴人の実地調査に際しては、わずかに耕作田の地番・地積・小作関係を記載したもの、公租公課・肥料牛馬飼料等に関する書類しか提出することができなかつたことが明らかであるから、控訴人が前示のごとく農業所得標準による推計により、被控訴人の昭和三〇年度総所得金額を算出したのは、該推計方法が合理的なものである限り適法なものといわなければならない。
(三) そこで、控訴人の右推計方法を検討するに、成立に争のない乙第一号証、第二号証の一ないし三、第一〇号証の一ないし六、前記証人高橋博の証言、これにより成立を認める乙第三・八号証、前記証人成瀬格の証言、これにより成立を認める乙第五・六号証、当審証人阿部覚弥の証言により成立を認める乙第二一号証、同庄子庄蔵の証言により成立を認める乙第二二号証によると、仙台北税務署及び控訴人が採つた農業所得標準は略次のごときものであつて、合理的なものであることが認められる。
すなわち、普通田の所得標準を作成するについては、各税務署が管内における普通田の地力を五階級に区分し、農業災害補償法の規定にもとづき、農業共済組合が設定する共済基準反収に近似する圃場を選んでそれぞれ各数個所を刈取り(いわゆる坪刈)、収量を得たうえこれを基礎とし、これに青色申告における収量、農林省その他の関係機関の調査資料を参酌し三〇パーセントまでの災害による減収のあることを折込んで反当収量を得、これに米価を乗じて反当収入を計上し、地方基準調査農家すなわち、収入及び支出を継続して記帳している青色申告農家から抽出した農家(一税務署管内で三〇戸)について、必要経費すなわち、公租公課・種苗代・肥料代・農具費・衣料費・農薬代・籾すり料・電灯料等の一般経費及び牛馬飼育費・雇人費・土地改良区費等特別経費を各細目毎に実地に調査して反当経費を計上し、右反当収入からこれを控除して反当所得標準を推計したものであり、普通畑の所得は右に準じ計上したものであつて、昭和三〇年度における被控訴人の農業所得につき適用された所得標準は、
(1) 普通田について
地力区分B(農業共済組合引受基準反収米二石四斗以上二石五斗未満、七郷地区内における地力区分による実面積反収二石八斗三升)、収入金額二八、七八一円(昭和三〇年度における平均米価石当九、六三九円に副産物である藁石当四五貫、単価一二円の割合による五四〇円を加算した一〇、一七〇円を右標準反収に乗じて算出(一〇円未満切捨))、必要経費・公租公課六三一円、種苗代三七〇円、肥料代三、一五〇円、農具費六一四円、償却費五一五円、その他一、八二四円、合計七、一〇四円、差引反当所得二一、六七七円、これに七郷地区未耕地整理地における平均繩延率九・五パーセントを加算した反当所得金額二三、七三〇円(一〇円未満切捨)
(2) 普通畑について
地力区分B、反当収入金額二〇、二五二円、必要経費・公租公課四三七円、種苗代一、五三三円、肥料代三、一〇六円、農具費八四七円、償却費五五四円、その他一、九九五円、合計八、四七二円差引一一、七八〇円である。
ところで、被控訴人は、右普通田の所得標準は反当米二石八斗三升の収穫があることを前提とし、かつ未耕地整理地の関係において平均九・五パーセントの繩延があることを前提として作成されたものであるが、被控訴人の耕作田は平均してその地力が七郷地区で中の下に相当し、かつ未耕地整理地ではあるが、右のごとき繩延がなく、しかも被控訴人は昭和三〇年度稲作に相当の被害を受け、反収二石三斗以下として仙台市農業共済組合に被害申告をしたものが一町一反四畝歩にも及び、そのうち減収率三五パーセント、反収一石五斗と評価されたものが八反二畝歩もあり、同年度における公簿面積による平均反収は二石六斗に過ぎなかつたのであるから、被控訴人の同年度における農業所得を右所得標準により推計したのは失当である旨主張するので判断するに、右被控訴人の主張にそう原審における証人中村末吉・油井金芳・遠藤正の各証言及び被控訴人本人尋問の結果は、後段認定の各証拠に照合して措信し難く、また甲第二三号証(仙台市農業共済組合長の昭和三〇年度水稲災害証明書)記載の災害の程度らん記載の減収率は、成立に争のない乙第九号証(同組合長の同年度水稲災害証明書)及び当審証人三浦巍の証言に徴し、同農業共済組合が確認したものでないことが明らかであつて、被控訴人が同年度に被つた稲作の被害率を示すものとは認め難く、その他被控訴人の右の主張を認め得る証拠はない。
かえつて、前記乙第九号証、第二一、二二号証、成立に争のない乙第七号証の二、第一五号証の三、第一六号証の一ないし五、公文書であることにより成立を認める乙第二〇・二六号証、当裁判所が真正に成立したものと認める乙第二七・二八号証、当審証人安達平右衛門の証言により成立を認める乙第二五号証、当審証人阿部覚弥・庄子庄蔵(第一・二回)・安達平右衛門・細谷金治郎・大泉多利治・堀江新太郎の各証言を総合すると、昭和三〇年度は大豊作の年に当り、被控訴人の耕作田の所在する七郷地区においても普通田の実面積反収は約三石をこえ、被控訴人の耕作田はその一部が災害を被つたけれども全体としてはやはり豊作であつて、少くともその実面積反収は二石八斗三升を下らなかつたこと(被控訴人は同年度において、昭和二八年から昭和三三年までの六個年間の平均供出量二九石四斗八升一合余をこえる六個年中最高の三四石を供出した。)、被控訴人が同年度において耕作した田の土地台帳上の総面積(字切符屋一五番田三畝二三歩を除く。)は二町一反一畝二四歩であるところ、その実測面積は二町六反五畝一六歩に及び二五パーセント以上の繩延があること、被控訴人は仙台市農業共済組合に対し、同年度における風水害等による三〇パーセント以上の災害反別を共済引受面積一町九反六畝二三歩の約六四パーセントに相当する一町二反六畝一〇歩として申請したが、その評価の結果は、字中道西一四番田二畝一九歩につき五〇パーセントないし六〇パーセントの災害を被つたものと認定され(同田地の範囲において被控訴人が災害を被つたことは当事者間に争がない。)、共済金五四七円の支払を受けたが、その余はすべて災害が三〇パーセント未満と認定されたことが明らかであるから、控訴人が審査決定に際し、前示農業所得標準を適用して被控訴人の同年度における農業総所得金額を推計したことは相当である。もつとも、控訴人が前記審査決定に際し、右災害田につき被控訴人の所得額を減算しなかつたことは本件弁論の全趣旨により明らかであるが、次に認定するごとく、その減算方式は、前示農業所得標準を適用して所得金額を算出したうえ、災害減損額を控除することを相当とするものである。
(四) そこで、進んで被控訴人の右農業所得金額を計算すると、次のとおりである。
A 総収入金額
(1) 被控訴人が昭和三〇年度において耕作したことが当事者間に争のない水田(普通田)一町九反六畝歩に前示所得標準による推計所得金額を算出すると、四六五、一〇八円となるわけであるが、すでに認定したとおり、被控訴人は右田のうち二畝一九歩については五〇パーセントないし六〇パーセントの災害を被つたものと認定され共済金五四七円の支払を受けたのであるから、右災害田については所得額を減算すべく、被害田減算所得標準(当裁判所が成立を認める乙第二三号証被害田減算所得標準表の地力区分B、未耕地整理地、被害程度五〇パーセントないし六〇パーセントの項)による反当減算額一五、二五四円に右被害反別を乗じて得た四、〇一七円(円位未満四捨五入)を右四六五、一〇八円から控除した四六一、〇九一円
(2) 原審証人成瀬格の証言及び本件弁論の全趣旨により認められる被控訴人が同年度耕作した普通畑一畝歩に対する前示普通畑についての所得標準による推計所得金額一、一七八円
(3) 前記乙第二号証の三、第一〇号証の二、第二五号証により認められる被控訴人の同年度供出米三四石に対する俵代(石当一一〇円)三、七四〇円
(4) 被控訴人が自陳する昭和二九年産供出米に対する追払金四、〇四五円
以上合計金四七〇、〇五四円
B 必要経費
(1) 被控訴人が昭和三〇年度馬一頭を飼育したことは当事者間に争がなく、控訴人が自陳する馬一頭の飼育費(平坦地)二八、〇〇〇円(この点につき、被控訴人は甲第一三ないし第一六号証を提出するが、これら書証が真正に成立したものであることについては証明がなく、また、原審証人中村末吉は税務署の家畜に対する飼育額は不当に安いものである旨証言するが、これら証拠によつては、右馬一頭の飼育費二八、〇〇〇円を上まわるものとは認め難い。)
(2) 控訴人の自陳する同年度被控訴人が支払つた臨時雇人八〇人分(日当一人三〇〇円)費用二四、〇〇〇円(この点につき、被控訴人は甲第二二号証を提出するが、同証が真正に成立したものであることについては証明がなく、また、原審証人中村末吉は、税務署の雇人費用は不当に安いものである旨、同油井金芳は雇人費用は日当一日三〇〇円をこえると思う旨証言するが、これら証拠によつては、右臨時雇人費用二四、〇〇〇円を上まわるものとは認め難い。)
(3) 控訴人の自陳する同年度被控訴人が支払つた共済掛金二、三五一円
(4) 当事者間に争のない被控訴人が同年度負担した土地改良区費三、四五七円
(5) 控訴人が自陳する同年度被控訴人が負担した小作料二、三〇〇円(この点につき、被控訴人は甲第一七号証を提出するが、同証が真正に成立したものであることについては証明がなく、右小作料二、三〇〇円を上まわるとは認め難い。)
(6) 当事者間に争のない被控訴人の同年度供出予約減税額三七、四〇〇円
以上合計九七、五〇八円
右AからBを控除した農業所得金額三七二、五四六円
被控訴人は、必要経費として合計一九六、四二〇円を要した旨主張するが、すでに認定したとおり、農業所得標準は、公租公課・種苗代・肥料代・農具費・衣料費・農薬代・籾すり料・電灯料等の一般経費を計算して作成したものであるから、農業所得標準を適用して所得金額を計算すべきものであるからには、必要経費としてはこれら計算に含まれないB項記載の種目の費用に限られるべきものである。
以上の事実によると、被控訴人の昭和三〇年度における農業所得金額は三七二、五四六円であるから、控訴人がこれを三七六、五〇〇円と審査決定をなしたことは過当(三、九五四円)というべきである。
しかし、前記乙第二七号証によると、被控訴人は同年度課税の対象とされた当事者間に争のない普通田一町九反六畝歩のほかに仙台市七郷大字六丁目字切符屋一五番普通田三畝二三歩(実測面積四畝一七歩)を耕作していることが認められるから、右田につき前示農業所得標準を適用して得た少くとも控訴人主張額たる八、七八〇円を前記農業所得金額三七二、五四六円に加算すべく、そうすると同年度における農業総所得金額は前記審査決定額三七六、五〇〇円をこえることが算数上明らかであるから、控訴人が被控訴人の同年度農業所得金額を三七六、五〇〇円と審査決定したことは結局相当である。
そして、被控訴人の同年度における概算所得控除額が七、五〇〇円、生命保険料控除額が一三、五〇〇円、扶養控除額が一八万円、基礎控除額が七五、〇〇〇円合計二七六、〇〇〇円であることは当事者間に争がなく、農業所得金額三七六、五〇〇円からこれを控除した課税総所得金額は一〇〇、五〇〇円となり、昭和三一年法律第六号による改正前の所得税法第一三条による所得税額は二万円となるから、控訴人の審査決定は相当であつて、被控訴人の本訴請求は全部理由がない。
(五) 右と異なり、控訴人の審査決定を一部取消し、被控訴人の請求を一部認容した原判決は失当であるからこれを取消し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条・第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 鳥羽久五郎 羽染徳次 桑原宗朝)